【AI映像の現在地|2026年8月】AI動画の次の主戦場は「覚えておく力」。長くても崩れない動画の素地が育ちはじめた
今回の現在地:研究は「数分」を報告、製品は「180秒」を発表
リードで、短いカットをつないで1本にするのがいまの主流だと書きました。動きはじめているのは、その「つなぐ」を減らして、1回の生成でもっと長い映像を通しで作ってしまおうという話です。研究の世界では、数分規模の映像を人物や場面を保ったまま生成できたという報告が、直近1週間で複数出ました。製品側でも、動画生成モデルの新しい版が「最大180秒」という数字をすでに発表しています。
順番が逆に見えるかもしれません。研究がまだ論文の段階なのに、製品の発表のほうが先に出ている。ここで、この連載で考えている「技術が実用化されるまでのプロセス」を出します。私たちは新しい能力の進み具合を、次の6つの段階に分けて見ています。
この6段階は、一つの技術が1から順番に上がっていく階段ではありません。論文になる研究と、企業が製品の中で進めている開発は、お互いの中身が見えないまま同時に走っています。企業の開発は論文の形で外に出ないことが多いので、「研究は段階2なのに、製品発表(段階3)が先にある」という並びは普通に起こります。
それでも、発表は「できる」の証明にはなりません。段階3と段階4の間には、実際に使った人がいるかどうかという線があります。今回の変化の現在地は、研究側が段階2(研究デモ)、製品側が段階3(製品発表)〜段階4(限定提供)の間。発表は出たけれど、実際に使える状態はまだ確認できていない、という位置です。
研究がそろって取り組みはじめたのは「覚えておく力」
そもそも、AIはなぜ長い動画が苦手なのでしょうか。
AIは映像を少しずつ先へ先へと作り足していくのですが、そのとき、前に作った場面を細かくは覚えていられません。人物の顔や服、背景の様子、物の位置。作り進めるうちに手がかりが薄れて、後半になるほど別人・別の場所になっていきます。短いカットが主流なのは、崩れる前に切り上げているから、という側面があるわけです。
この「覚えていられない」に正面から取り組む研究が、この1〜2週間で続けて公開されました。
7月22日に公開された論文「Self Gradient Forcing」は、過去の映像の記憶を、その先の映像が作りやすい形で覚え直す学習方法を提案しています。著者らは、この方法で5秒分の学習範囲から数分の映像まで伸ばせたと報告しています。
7月28日に公開された「Wonder」は、1枚の画像をもとに、カメラを動かして別の場所を見に行き、元の場所へ戻ってきても同じ場面が保たれている映像世界を作る研究です。こちらも、長い生成の履歴から必要な情報を取り出す記憶の仕組みを使い、分単位の映像を一貫して生成できたと報告しています。
少しさかのぼると、7月20日公開の「AlayaWorld」は、長時間の生成中に演出の指示を受け付け続ける仕組みを扱っています。人物の顔や役割が途中で入れ替わらないようにする「Vera」(7月22日公開)も、覚えておく対象が「人物」に絞られているだけで、同じ流れの中にあります。
ここからはSmarveeの見方です。これらの研究が共通して進めているのは、「カットを割っても、前のシーン(場面)をどう覚えておくか」「カット間・シーン間の一貫性をどう保つか」という仕組みです。ここが解ければ、尺の長さは結果としてついてきます。逆に言うと、長さの数字だけが先に出てきても、覚えておく力が伴っているかどうかは別の問題です。
なお、いずれも査読前の論文で、結果は著者らの実験環境での報告です。制作で使える形で公開されたものは、現時点でありません。
製品側の動き:「最大180秒」の発表は出たが、使えた確認はまだない
製品側にも動きはあります。動画生成モデル「Seedance」を開発しているのはByteDanceで、その提供先と案内されているのが、同社傘下のCapCutが運営する制作サービス「Dreamina」です。DreaminaのSeedance 2.5紹介ページには、2026年7月30日時点で次の記載があります。
- 標準モードで最大30秒、ベータ版の長尺モードで最大180秒
- 画像・映像など、最大50個の素材を参照できる
- 生成し直さずに、指定した部分だけを修正できる
- 4K出力に対応する
数字だけ見ると、研究より製品のほうが先を行っているように読めます。ただ、同じページには「coming soon(近日公開)」と表示されています。提供時期を説明するページでも、7月中旬の公開見込みという記述と、一部の利用者へ段階的に提供が始まっているという記述が同居していて、いつ、誰が使えるのかは読み取れません。日本から使えるのか、料金がいくらなのか、180秒を通したときに人物や場面が保たれるのかも、現時点では確認できていません。
Seedance 2.5の長尺生成の現在地は、段階3(製品発表)〜段階4(限定提供)の間。発表は事実として出ていますが、「180秒の動画を仕事で作れるようになった」と読むのはまだ早い、という位置です。
「素地ができてきた」を、制作の工程から言い換えると
ここからはSmarveeの見方です。研究が同じ課題に集まり、製品側からも発表が出てきた。この状態を、この記事では「素地ができてきた」と呼んでいます。いつ使えるようになるかは分かりません。ただ、進む方向は定まってきた、ということです。
では、長い動画を通しで生成できるようになったとき、制作の工程は何が変わるのでしょうか。
いまの実務では、短いカットを生成し、人が選び、つないで1本にしています。生成のたびに結果が揺れるので、同じカットを何度か作り直して、人物や場面が合っているかを人が確かめながら進めます。長尺生成で減るのは、このうち「カットをつなぎ直して、境目を整える」部分です。一方で、180秒をひと息に生成できるようになるほど、「途中の1か所だけ直したいとき、どうするか」が新しい問題として大きくなります。Seedance 2.5の発表内容に部分修正が含まれているのは、この問題への回答だと読めます。
そしてもう一つ、制作する立場から見ると、見落とされやすい変化があります。事前準備の重さです。
長い映像で人物や場面を保つには、生成AIに渡す参照資料(リファレンス)を先にそろえておく必要があります。人物なら、誰が生成しても同じ顔・同じ雰囲気に出る精度の資料。背景や小道具も、シーンをまたいでぶれないように、一つひとつ個別の資料。尺が伸びて登場するものが増えるほど、この準備は増えていきます。Seedance 2.5が参照素材を最大50個と発表しているのも、長い映像にはそれだけの資料が要る、という話の裏返しだと読んでいます。
費用の見え方も変わります。生成にかかる料金だけを比べれば済んでいたものが、一貫性を徹底しようとするほど、参照資料を作り込む人の時間がかかるようになる。「長く作れるから安くなる」と単純には言えないのは、このためです。
【AI動画=安っぽい、は誤解?】品質とコストの正直な関係
「AI動画は安っぽい」と思っていませんか?実は品質は「どこに人の手をかけるか」で変わります。この記事では、AI動画の品質...
長尺化は、工程が減る話ではありません。仕事の重心が、生成したあとの調整から、生成する前の準備へ移る話です。私たちはそう捉えています。
動画生成AIで内製化、どこまでできる?AI動画時代の3つの壁と使い分け
AIで動画は作れる時代、と言われます。たしかに1シーンだけなら、飛び切りかっこいい映像が出せます。かっこいいシーンを繋ぎ...
AI動画の内製・発注について相談する
今回の現在地と、この連載の続け方
「長いAI動画を、人物や場面を保ったまま作る」という変化は、研究側が段階2(研究デモ)、製品側が段階3(製品発表)〜段階4(限定提供)の間にいます。発表の数字は先行していますが、実際に使えた確認はまだありません。
これが正式に使えるようになると、AI動画の業務のウェイトは、「リファレンスの準備」や「台本」といった企画側に軸足が移っていきます。生成にかかるクレジットの価格も上がるはずです。今年4月にアプリ版の提供を終えたSora2のような「気軽に思いつきをAI動画にする」使い方から、「プロが商用に使う」方向へ、AI動画はどんどん進んでいく。私たちはそう見ています。
この連載は不定期です。現在地が動いたと確認できたときに、新しい記事を書くか、過去の記事に追記する形で更新していきます。発表の速報を追いかけるのではなく、確認できたことだけを積み重ねていく。そういう定点観測として読んでいただければと思います。
生成AI動画の長尺化にどう備えるか、リファレンス整備や制作体制のご相談はお気軽にどうぞ。
動画制作・動画マーケティングのご相談
記事に関するご質問や、制作のご依頼・お見積もりなど、
まずはお気軽にお問い合わせください。
Q.
AI動画は今、何秒くらいの映像を作れますか?
Q.
「最大180秒」と発表されたのに、なぜすぐ使えないのですか?
Q.
長いAI動画が作れるようになると、制作費は下がりますか?
Q.
長いAI動画の時代に向けて、いま準備できることはありますか?
Q.
リファレンス(参照資料)とは何ですか?
参考情報
- Self Gradient Forcing(論文):https://arxiv.org/abs/2607.20368
- Wonder(論文):https://arxiv.org/abs/2607.26037
- AlayaWorld(論文):https://arxiv.org/abs/2607.18367
- Vera(論文):https://arxiv.org/abs/2607.20247
- Seedance 2.5 紹介ページ(Dreamina):https://dreamina.capcut.com/seedance/seedance-2-5
- Seedance 2.5 提供状況ページ(Dreamina):https://dreamina.capcut.com/seedance/seedance-2-5-release-date
- Soraの提供終了について(OpenAIヘルプセンター):https://help.openai.com/ja-jp/articles/20001152-what-to-know-about-the-sora-discontinuation