AIで動画を作ると早いのですか、と聞かれることがあります。これは早いです、とお答えしています。ただ、その早さがどこから来ているのかは、外からは見えにくいところかもしれません。
これまでの制作では、初稿を出してから修正の方向が固まるまで、早くて2〜3日、長ければ1週間ほどかかっていました。クライアントにお見せする前に、ディレクターとクリエイターの間で1〜2回のやり取りを挟むためです。生成AIを使うようになってから、この往復が早ければ30分、長くても1〜2日で収まるようになりました。
速くなった理由は単純で、試す回数が桁違いに増えたからです。作って、見て、直す。この繰り返しが分単位で回ります。
ただ、この試行回数は見積書には出てきません。何回試したうえでの1カットなのかが分からないままだと、提示された金額が高いのか安いのかも判断しにくいのではないかと思います。
そこで今回、直近の7案件について、実際に何回生成していたのかを数えてみました。
AI動画が早い理由は、試行回数が桁違いだから
生成AIで制作が速くなったと言われるとき、多くの場合は「1本を作る時間が短くなった」と受け取られます。ただ、実際に現場で起きている変化はもう少し違うところにあります。変わったのは、作り直しにかかる手間のほうです。
これまでは、1カットを別の見え方に作り替えるとなれば、素材を組み直し、レンダリングをかけ、確認して、また戻すという流れになりました。1往復に日数がかかるので、試せる回数もおのずと限られます。方向性を3案並べて比べる、といった進め方は、時間にも予算にも余裕のある案件でなければ難しいものでした。
生成AIでは、この1往復が数分で回ります。作って、見て、直して、また作る。この繰り返しが、以前とは進む密度がまったく違います。
修正1往復にかかる時間。同じ確認回数でも、往復にかかる日数が変わる。
実際の数字を挙げます。今回集計した案件のうち、1分・18カットの動画を作った案件では、2日間で260回の生成を行っていました。このうち、最も集中していた連続3時間では180回。およそ1分に1回のペースで、何かを作っては見て、直していた計算になります。
つまり「早い」の中身は、作業そのものが速くなったというより、試行回数を増やせるようになったということです。以前なら1案で進めるしかなかったところを、10案、20案と作って比べられます。そのぶん、目指していた画に近づけやすくなりました。
早さと品質のどちらかを選ぶ関係ではなくなった、という言い方もできると思います。
直近の7案件を数えてみた
生成AIのサービスには、いつ何を作ったかの履歴が残ります。そこから直近の案件を7件ぶん拾い出し、1件ずつ生成回数を数えました。
案件の中身が分かる書き方は避けたいので、動画A案件、画像A案件といった呼び方で進めます。納品したカット数と、実際に生成した回数だけをご覧ください。
| 案件 | 納品 | 生成回数 | 作業した日数 |
|---|---|---|---|
| 動画A案件 | 24カット | 475回 | 15日 |
| 動画B案件 | 18カット(1分) | 260回 | 2日 |
| 動画C案件 | 3カット | 108回 | 4日 |
| 動画D案件 | 1カット | 43回 | 3日 |
| 動画E案件 | 1カット | 62回 | 9日 |
| 動画F案件 | 1カット | 97回 | 10日 |
| 画像A案件 | 24カット(静止画) | 352回 | 4日 |
7案件を合わせると、納品したのは72カット、生成した回数は1,397回でした。単純に割ると、1カットあたり19.4回作っていることになります。完成した1カットの裏側に、採用しなかったものが18枚ほどある、という見え方です。
いくつか補足させてください。
回数には、方向性を探る段階で作ったものも、色や配置を少し変えて見比べたものも含まれています。失敗した生成だけを数えたものではありません。また、作業した日数は「その日に1回でも生成した日」を数えたもので、朝から晩まで通しで作業した日数ではありません。
数え方をそろえたうえで並べてみると、案件によって回数に大きな差があることが分かりました。
納品カット数によって、1カットあたりの回数が4倍近く変わる
7案件を、納品カット数の多い順に並べ直します。数値はいずれも1カットあたりの回数です。
| 案件 | 納品カット数 | 画像生成数 | 動画生成数 | 合計生成数 |
|---|---|---|---|---|
| 画像A案件 | 24カット(静止画) | 14.7 | ー | 14.7 |
| 動画A案件 | 24カット | 15.4 | 4.4 | 19.8 |
| 動画B案件 | 18カット | 11.7 | 2.7 | 14.4 |
| 動画C案件 | 3カット | 27.3 | 8.7 | 36.0 |
| 動画D案件 | 1カット | 32.0 | 11.0 | 43.0 |
| 動画E案件 | 1カット(実写へのVFX) | 17.0 | 45.0 | 62.0 |
| 動画F案件 | 1カット | 52.0 | 45.0 | 97.0 |
上の3件をご覧ください。静止画で納品した案件も、24カットの動画案件も、18カットの動画案件も、画像の生成数は1カットあたり12回から15回に収まっています。静止画と動画では工程がまったく違うのに、絵を1枚決めるまでの手数はほぼ変わりませんでした。
動画にする工程は、そこに2.7回から4.4回が加わるだけです。絵が決まってしまえば、動かす作業自体はそれほど回数を必要としません。
納品カット数が多い案件ほど、1カットあたりの生成回数は少なくなる。
回数が増えるのは、納品カット数が減ったときです。3カットの案件では画像が27.3回、1カットだけの案件では平均33.7回まで増えました。動画側の変化はさらに大きく、まとまった本数なら3.7回だったものが、1カットだけの案件では33.7回。画像と動画がちょうど同数になっています。
1カットだけの3案件は、それぞれ43回、62回、97回でした。3案件あわせて3カットを202回、1カットあたり67.3回です。いっぽう、まとまった本数を作る2案件は42カットを735回で仕上げているので、1カットあたり17.5回。同じ1カットを納品するのに3.8倍の開きがあります。
なお動画E案件だけは、画像17回に対して動画45回と、ほかとは形が異なります。これは、すでに撮影された実写映像に対して、あとから要素を合成するVFXの案件だったためです。絵をゼロから作る必要がない代わりに、もとの映像を壊さずになじませる調整が動画側に集中しました。画像の手数が少ない案件が楽というわけではなく、手間のかかる場所が前から後ろへ移るということです。
この開きは、案件の難しさとは別のところから生まれています。
なぜ「1カットだけ」だと回数が増えるのか
案件の難しさではないとすると、どこから差が出るのか。答えは、カット数にかかわらず必要になる「決めごと」の存在です。
映像を1本作るとき、絵柄の方向性、登場人物の見た目、背景のトーン、線の太さ、色の乗せ方といったことを、どこかで決めなければなりません。これは1カットだけの案件でも24カットの案件でも変わらず必要です。そして、この決めごとにいちばん生成回数がかかります。
実際の推移をご覧ください。24カットを納品した動画A案件では、作業を始めてから最初の1週間で全体の8割にあたる321回を生成しています。残り2週間で作ったのは75回です。前半で登場人物と背景のスタイルを固めきり、後半はそれを使ってカットを組み立てていく流れになりました。
つまり、生成回数の大半は「1カット目を作るための回数」であって、2カット目以降の回数ではありません。24カットの案件なら、この立ち上がりの手間が24カットに分かれて乗ります。1カットだけの案件では、同じ手間をそのカット1つで受け止めることになります。
1カットだけの依頼が割高に見えるのは、そこに立ち上げの手間がまるごと入っているから、という説明になります。作業量が多いのではなく、その手間を分け合う相手がいないということです。
逆に言えば、同じ絵柄で続けて作るなら、2本目以降はかなり軽くなります。1本目で決めたことをそのまま使えるためです。「まず1本試してから、うまくいけば続けて何本か」という進め方は、費用の面では効率が良くありません。最初から本数を決めて発注したほうが、1カットあたりの手間は下がります。
1カットの中で、何にどれだけ試しているのか
生成回数の内訳を、何のための回数かで分けてみました。
| 工程 | 画像A案件(24カット・静止画) | 動画B案件(18カット・動画) |
|---|---|---|
| 登場人物と背景を用意する | 93回(26%) | 44回(17%) |
| 構図を出す | 144回(41%) | 123回(47%) |
| 細部を調整する | 115回(33%) | 44回(17%) |
| 動画にする | ー | 49回(19%) |
| 合計 | 352回 | 260回 |
どちらの案件でも、いちばん回数がかかっているのは構図です。画面のどこから見るか、人物をどの大きさで入れるか、背景や小物とどう組み合わせるか。ここに4割から5割が使われています。
工程別の内訳。静止画でも動画でも、構図を出す工程がいちばん回数を必要とする。
次に多いのが細部の調整です。「人物の手元に持ち物を足す」「奥にいる人物の並び順を変える」「照明のつき方を変える」といった、1か所ずつの直しになります。1回の指示で1つずつ直すため、回数が積み上がります。
この部分は、従来の制作でもやっていたことです。違うのは1往復にかかる時間だけで、以前は1つ直すのに日数かかっていたものが、いまは数分で返ってきます。だからこそ、これだけの回数を重ねられます。
動画にする工程は全体の19%でした。動きをつける作業そのものより、動かす前の絵を整える作業のほうが回数を必要としています。
なお、ここで挙げた進め方は、いまも変わり続けています。使うサービスも手順も数か月単位で入れ替わっていて、半年後には内訳の比率も変わっているはずです。変わりにくいのは、試して、見て、直すという繰り返しが必要だという部分のほうです。
手間がかかるのは、カットとカットのつなぎ目
1カットだけなら、そのカットが良ければ終わりです。ところがカット数が増えると、別の種類の手間が出てきます。前のカットとつながらない、という問題です。
同じ人物のはずなのに顔立ちが変わる。着ている服の色が違う。手に持っていたものが消える。窓から差す光の向きが逆になる。生成AIは前に作ったカットを覚えているわけではないので、1カットずつ作っていくと、こうした食い違いが必ず出ます。
そのため、1カットが単体で良くできていても採用できないことがあります。前後と並べて見て、つながらなければ作り直すか、別のコマを選び直すことになります。「そのカットの出来」ではなく「前後とのつながり」で決まるぶん、判断も一度では終わりません。
構図の工程に4割から5割が使われているのは、良い画角を探しているだけではなく、この整合を取り直す作業が含まれているためです。
ここは、1カットだけの案件では起きません。カット数が増えると1カットあたりの回数は下がりますが、代わりにつなぎ目の手間が増えます。カット数が多いほど単純に効率が良くなる、という話ではないということです。
この食い違いをなくす機能は、生成AI側でも改良が進んでいる分野です。前後を踏まえて作れるようになれば、この手間は減っていくと思います。ただ、いまの時点では人が並べて見比べる工程が残っています。
生成AIを使えば、同じものができるのか
ここまで回数の話をしてきましたが、裏側で何回試したかは、受け取る側にとっては本来どうでもいいことです。出てきたものが目的に合っていれば、それが1回で出たものでも100回目のものでも変わりません。
ただ、実際のところ、生成AIに1回指示して出てきたものが、そのまま人にお見せできる状態になっていることはあまりありません。今回の数字がそのまま表しています。1カットあたり17.5回から67.3回。この回数は、良いものを引くまでの回数であると同時に、出せないものを外していった回数でもあります。
社内で生成AIを試したことのある方なら、感覚として近いかもしれません。それらしいものはすぐ出てくる。ただ、指定した色と違う、人物の手の形がおかしい、前のカットと服が変わっている。そういう理由で使えないものが混ざります。この選別を何回繰り返すか、どこを直せば近づくかの判断が、実際の作業時間の大半を占めています。
使えるAIは、誰でも同じものです。変わるのは、出てきたものを見て良し悪しを判断する部分と、直し方の見当がつくかどうかです。ここは生成AIの側では埋まらない部分で、当面は人が持つしかないと思っています。
内製を検討されている場合も、この点が目安になります。社内で試して出てきたものの品質と、必要としている品質に開きがあるなら、その差はAIの性能ではなく、回数と選別の部分にあります。そこを社内で積むのか、外に出すのかという選び方になります。
依頼される場合に、費用の面でひとつだけ挙げるとすれば、同じ絵柄で複数カット作る予定があるなら、まとめて依頼されたほうが1カットあたりは下がります。1カットだけの依頼が割高になるのは、絵柄や登場人物を決める手間をそのカット1つで受け止めるためです。
AI動画の制作・お見積りのご相談
1カットだけの検証から、まとまった本数の制作まで。
ご予算と用途にあわせて、無理のない進め方をご提案します。


