一言でアニメーションといっても、TVアニメや劇場アニメのような大規模なものから、Web等でみられる平面的なキャラクターによるアニメーション、写真や画像を使って画面の切り替えなどを行うスライドショーのようなものもアニメーションに括られます。
そのため、アニメーションを制作会社に見積依頼する場合にもアニメーションという言葉で表現されるイメージが一致しないことで「こんなはずじゃなかった!」ということが起こりかねません。今回は、アニメーションにどんな種類があるのか、その特徴やメリットを紹介していきたいと思います。
アニメーションの種類
一般の方に「アニメといえばどんなものを思い浮かぶ?」と聞いた場合、大半の方は劇場アニメやTVアニメを想像されると思います。一方で、企業の方がビジネス用途のアニメーションを想像する場合にはほとんどの場合、「モーションアニメ」「モーショングラフィックス」と呼ばれる平面的な動きを中心としたアニメーションを想像します。それぐらいに「アニメ」という言葉から想像されるイメージには大きな違いがあります。下の図は、街や公園の一角を描き方やテイストの違いによってどのように見えているかを示したものになります。
「アニメを制作したい」という言葉だけでやり取りすると、これだけのイメージの違いが生まれかねないのです。どうしても「アニメ」というと絵柄やテイストなどが先行しがちですが、依頼する側と制作する側でまずは「アニメーションの種類」からイメージをすり合わせる必要があるのです。
セルアニメとモーションアニメ
前述のように、アニメーションといっても様々なテイストがあり、制作現場のデジタル化に伴い制作手法も日々進化しているため、その分類・種類は日々増えているといっても過言ではありません。しかし制作手法で分類した場合には大きく2つの作り方があります。
セルアニメ(フレームバイフレーム)
TVアニメや劇場アニメのほとんどはこの手法で作られています。1コマごとに少しずつ動きを付けたイラストを連続して撮影するアニメです。パラパラ漫画をより細かくしたものをイメージしていただければよいでしょう。元来「アニメーション」という単語自体がこの制作手法を指していましたが、後述するモーションアニメという制作手法が登場したことにより、便宜的に「セルアニメ」や「フレームバイフレーム」と呼ばれます。
セルアニメの「セル」とは、アナログ時代にセルと呼ばれる透明なシートに動きのある部分を描き、動かない背景を重ねてアニメ化していたことに由来します。現在はデジタル化が進み、セル自体は使われなくなっていますが手法的には現在のデジタルアニメも同じような原理で作られています。セルアニメには、背景を含めて画面内の全ての絵を少しずつ動かすことで作られる「フルアニメ」、目や口元など動きのある部分だけを動かして表現する「リミテッドアニメ」、実写で撮影されたものをトレースして制作する「ロトスコープアニメ」などに分けられます。
その中でもリミテッドアニメの手法はより細分化されており、1秒当たりのフレーム数や動く範囲を極限まで節約した「パラパラ漫画」、ゆっくり動画などで使われる「口パクアニメ」、ゲームなどで使われる「ドット絵アニメ」なども、広義の意味ではリミテッドアニメと言えるでしょう。
セルアニメの特徴はモーションアニメに比べて表現の幅が非常に広く、感情表現なども伝えやすい点です。一方で制作費は高くなりやすく、どんなにコストを抑えたとしても100万円~の金額感になってきます。
モーションアニメ
ベクター化された(線によってつくられたデータ)イラストなどのオブジェクトの動きを制御するキーフレームの開始点と終了点、それぞれの形状と導線を設定することで中間点を自動生成していく手法です。モーショングラフィックス、キーフレームアニメといった呼ばれ方をすることもあります。
モーションアニメの特徴は、開始点と終了点を設定するだけで1コマごとに描く必要がないため、大幅な制作工数の短縮につながります。もちろん、細かい中間点を設定したり、オブジェクトを細かく分割することで複雑な動きを実現することも可能です。「ベクター化されたイラスト」を用いるため、モーションアニメで使われるイラストの特徴としてはっきりとした境界線をもつ非常にシンプルなものが中心となります。
装飾された文字をアニメーションで動かす「タイポグラフィックアニメ」、ホワイトボードにペンで描く演出をする「ホワイトボードアニメ」、斜め45度から見下ろした疑似3Dのグラフィックを動かす「アイソメトリックアニメ」などはすべて、モーション設定を行うことで動かしているモーションアニメの派生形と言えます。
モーションアニメの特徴としては、セルアニメに比べて短納期・低コストでの制作が可能ということです。一方で、モーションアニメは立体的な表現が苦手であり、平面的な動きが中心となってきます。
セルアニメ(フレームバイフレーム)の派生
パラパラ漫画の要領で作られるセルアニメは、使われるイラストのテイストに制限はありあせん。そのためセルアニメは「どれだけ効率よく制作することができるか」という点に重点を置いて発展をしてきました。現在の主流はほとんどが「リミテッドアニメ」であり、日々その派生形が生まれているのが現状です。
フルアニメ
1コマごとに「動くもの全ての絵」を少しずつ動かすことで作られているアニメでアナログ時代にウォルトディズニー作品などで使われました。セル1枚ごと全てが書き起こされています。現在はデジタル化が進み、完全なフルアニメと呼ばれるものは制作されなくなっており、リミテッドアニメとの境目はほとんどなくなっています。
リミテッドアニメ
セルアニメの制作工数をより効率的にするために生まれた手法です。シーン内の動きのある部分だけを少しずつ動かし、それ以外の部分は前のコマのまま利用します。シーンごとに動かす作画範囲が限られているため、コストとクオリティのバランスがとりやすくなります。
パラパラ漫画・口パクアニメ
リミテッドアニメの中でもより効率的に動きを限定したものです。目や口元などイラストの一部パーツを複数用意し、セリフなどに合わせてパーツを交互(もしくはループ)に切り替えることでキャラクターの動きを表現します。動く場所がかなり限定的なため、コストを抑えることが可能です。
ドット絵アニメ
「ゲームプログラミング」から派生したアニメの作り方です。キャラクターの動きを4~8パターンごとに描きわけ、ループでパターン表示することで動きを表現します。ドット絵のリバイバルブームもあり、ドット絵クリエイターは増えてきましたが、動きを描き分けたパターンを描けるクリエイターはまだまだ少ないため、アニメーション設定よりもドット絵イラストを準備する工程が非常に重要になってきます。
手書きアニメ
リミテッドアニメも制作規模は千差万別ですが、手書きアニメは個人のアニメクリエイターがワンストップで制作するケースが多いです。アニメクリエイター自身が絵を書き起こし、少しずつ動きを付けたり加筆していくことで進行するアニメです。クリエイターの個性が出しやすく、絵のテイストや動きの付け方などオリジナリティが出しやすいのが特徴です。
ロトスコープアニメ
実写で実際に役者が演技し、撮影されたものをアニメでトレースすることで制作される手法です。実写での制作スキルとセルアニメの制作スキルの両方が必要となり、非常に大がかりになります。
モーションアニメの派生
キーフレームによるアニメーションでは動きが平面的になってしまうためそれを逆手に取った「平面を活かした見せ方」の派生が多く生まれています。また、CG処理や演算処理などを組み合わせることで、実写の装飾的な使い方ををすることもあります。
イラストアニメ・キャラクターアニメ
キャラクターのベクターグラフィックにキーフレームを設定することで演技をさせたり、演出をしたりする表現です。商品の使い方や心情などをキャラクターに簡易的に表現させることで、利用シーンなどを伝えることが可能です。
タイポグラフィックアニメ・ロゴアニメ
テキストのベクターグラフィックにキーフレームを設定することで文字の表示のさせ方や動きを表現する手法です。文字情報をより印象的に伝えるために使われます。イベントなどのアタック動画などによく使われます。
ホワイトボードアニメ
ホワイトボードにペンで描く演出をすることでアニメが表示される手法です。段階を踏んだ説明や時系列の表現などに適しています。また、どんな絵が描かれていくのか、ついつい完成するまで見てしまうという効果を狙えるのが特徴です。
ピクトグラムアニメ
キャラクターアニメのうち、キャラクターをピクトグラムのベクターデータで制作する手法です。ピクトグラムが使われる理由としては大きく3点です。1つがイラストコストを大幅に削減できること。2つ目は、シンプルかつコミカルなテイストをイメージしやすいこと。そして3つ目は、ピクトグラム自体が人種や性別があいまいなため、ポリティカル・コレクトネス(いわゆるポリコレ)的な視点で活用がしやすいという点が挙げられます。
アイソメトリックアニメ
斜め45度から見下ろしたような2Dで書かれたイラストを3Dのように動かすアニメ手法です。街の表現などで使われることが多いためか、背景イラストにかける手間が多くなりがちです。
その他のアニメーション手法
コンピューターグラフィックスの処理技術の向上や、撮影技術の進化などで「アニメ的原理を活用した動画」が様々に生まれています。アニメーションという言葉が拡大的に使われているため、今後も様々なアニメ手法が生まれてくると思います。
3Dアニメ・CGアニメ
3Dでモデリングされたキャラクターやオブジェクトを動かしたり、カメラワークを設定することで動かすアニメです。動画の元となる素材づくりの工程に手間をかけることで、様々な見せ方を作り出すことができます。近年では実写的な3Dだけでなくトゥーンレンダリングという手法により、アニメチックな絵柄で3D表現をするケースも増えてきています。
ストップモーションアニメ・クレイアニメ
少しずつ動きを付けながら1コマずつ撮影し、本来動きのない物体(人形や粘土造形など)をあたかも動いているかのようにする手法です。クレイアニメやコマ撮りアニメと呼ばれることもあります。見た目的には実写になるためアニメに分類されるのは違和感はありますが、原理としては「セルアニメ」と同じになります。昨今ではショート動画などで、料理動画やDIY動画などでこの手法が活用されていたり、切り絵、砂絵など制作工程を表現する手法としても使われていたりします。
スライドショーアニメ
写真や画像を切り替えることで表現する手法です。単に切り替えるだけでは動画として成立しにくいため、画像や素材のズーム処理、素材切り替え時のトランジションCG、イラストなどCG等を交えた装飾、レンポジと呼ばれる著作権処理された素材などを活用することで変化をつけることで動画として飽きずに見れる演出を行います。
アニメーション動画のメリット
様々な種類のアニメーション手法をご紹介してきましたが、アニメーションで動画を作るメリットはどこにあるのでしょうか。
抽象的・複雑な内容を分かりやすく説明できる
取り扱っている商品やサービス、ビジネスモデルが、ズバリと一言で言い表せるものとは限りません。文書だと難しくて理解できないものや実写では表現が難しいものでもアニメーションを用いれば、わかりやすく伝えることができます。
幅広い視聴者層に対応しやすい
人物や場所などを実写で表現した場合、ペルソナや利用シーンのイメージが、キャスティングや実際に写っているシチュエーションに引っ張られてしまう恐れがあります。
アニメーションでは、登場人物を抽象的に表現することが可能となるため、視聴対象を絞り込めない場合や、幅広いターゲット層を想定した場合、また多様性に配慮した場合など、塩梅を調整することで汎用性の高い動画を制作することができます。
修正・変更・量産に強い
アニメーションでは、変更点に合わせて作り変えることが容易であるため、成長中のサービスや派生商品による仕様変更に対応が簡単になります。また、視聴動向を踏まえての修正がしやすいため、広告動画など動画の再利用行う場合には非常にコストパフォーマンスが高くなります。また、予め複数パターンの作成が予定されている場合は、事前にテンプレートのようなものを用意しておくことで、スピーディーに複数パターンを用意するような設計も可能です。
コスト調整がしやすい
実写では固定費的にかかる部分、例えばキャスティング費やロケーション費など撮影時にかかる費用を大きく削減することができません。一方でアニメーションでは主にモーションアニメなどでは固定費的な部分が少なく、制作尺にあわせて変動費的にコストを調整することが可能なため、費用が大ブレしにくいというメリットがあります。
[vc_row][vc_column][vc_column_text css=""]実写とアニメ、ビジネスでの動画活用で必ず考えなくてはならないのは「制作費用」の問題です。どちらが高い・どちらが安いという話だけではなく、どのあたりの予算規模[…]
今後のアニメーション手法の広がり
近年では「生成AI(ジェネレーティブAI)」の台頭に伴い新しいアニメ手法が生まれつつあります。現在のところAIアニメは写実的な表現やセルアニメ的な表現のものが中心となっており、またシーンごとの整合性や一貫性を取ることが難しい状況ですが、そう遠くないうちにモーションアニメ的な表現や一貫性をもったシナリオ構成が可能な生成AI動画が生まれてくるものと考えています。