日本展示会協会の調査によれば、2014年に行われた展示会の75%は「BtoB向け」となっており、展示会はBtoB企業にとって欠かせないマーケティング活動の一つとなっています。またその多くは、春(4~6月)と秋(9月~11月)に集中しており、様々な産業の展示会が各地で行われています。
2017年もまもなく春の展示会の時期が近づいていますが、これから本格的に出展準備にとりかかる担当者の方も多くいることでしょう。今回は昨年2016年に行われたいくつかの展示会のサンプリング調査に基づき、動画の活用状況についてレポートします。是非2017年の展示会準備に向けて、ご参考にしてください。
展示会での動画利用率に関するサンプリング調査
昨年行われた展示会の中から併設展示会を含め、11の展示会についてフィールド調査を行いました。本調査では2つの産業分野の展示会を対象としています。
1つはデジタルマーケティング分野が中心の「IT・マーケティング系展示会」。もう一つは近年市場成長が著しい「環境系展示会」。近年注目度が上がっている2つの分野での比較を行いました。
- 調査時期:2016年5月、2016年10月
- 調査方法:調査員による目視
- 調査対象:IT・マーケティング系展示会 4会場、環境系展示会 4会場
- ブース数:426ブース(IT・マーケティング系展示会 223ブース、環境系展示会 203ブース)
- 調査項目:ブース小間数/ディスプレイモニターの設置有無/コンテンツの制作種別
展示会テーマ別のディスプレイモニターの設置状況と活用状況
- IT・マーケティングの展示会では68%のブースでディスプレイモニターが展示物として活用。全体の36%が動画を展示物として活用。
- 環境系の展示会では42%のブースでディスプレイモニターを展示物として活用。28%が動画を展示物として活用。
- 全出展ブースのうち32%が「展示会で動画を活用」。
展示会では、自社の製品・サービスをより広い対象に対して、深く知ってもらうことが大切です。そのため、展示会に出品する展示物が「サービス」なのか「プロダクト」なのかにより、展示方法や展示内容も大きく変わってきます。
ディスプレイモニターの設置状況の差は、IT・マーケティングの展示会が「無形・役務・サービス」が中心、環境系の展示会が「有形・製品・プロダクト」が中心であったことにより生まれていると考えられます。
実際、IT・マーケティングの展示会で「デモンストレーション」としてモニターを活用しているケースが多く、一方環境系の展示会では実機や製品の持ち込み展示が多数みられ、製品自体で「体験」や「デモンストレーション」を行っているケースが多くみられました。
このような違いはあるものの、展示物としての「動画」の利用比率は出展ブース全体から見た場合大きな差はみられず、2016年時点でも30%程度の出展ブースが「動画」を展示物として活用していると言えます。
小間数別ディスプレイモニターの設置状況と活用状況
- 1小間ブースでのディスプレイモニター利用率は39%。3小間以上では75%以上のブースがディスプレイモニターを利用。
- ディスプレイモニターを設置するブースの57%は動画を活用。
ディスプレイモニターによる展示ですが、その設置状況はブースの大きさによって大きく差が出ています。1小間(スタンドブース含む)のブースでは、39%であるのに対し、3小間以上のブースでは80%に近い設置状況となっています。そのモニターのコンテンツを見てみると、57%が「動画」による展示を活用しています。
モニター設置ブースの半数以上が「動画」を活用していることから、「展示物としての動画」は一般的になりつつあることが伺われます。
IT・マーケティング系展示会での動画コンテンツ内容調査
さらに、上記調査のうち10月に行われたIT・マーケティング系の展示会については、利用状況だけでなくその動画の内容についても調査しました。
- 調査時期:2016年10月
- 調査方法:調査員による目視
- 調査対象:IT・マーケティング系展示会 4会場
- ブース数:223ブース
- 調査項目:動画の訴求内容/制作手法(アニメ・実写)
動画の制作手法と内容
- 展示会での動画の制作手法はアニメ:実写=51:49
- 動画の内容・役割については「製品・サービスの利用イメージ」に関するものが55%
前述のように「展示物としての動画」が一般的になりつつある今、どのようなコンテンツが採用されているのでしょうか。
まず、出展規模別に動画の制作手法を見た場合、小規模ブースではアニメが採用され、出展規模が大きくなると実写が増える傾向となっています。また動画がどのような内容であるかを見ると、実写では実利用や顧客の声など、バラエティに富んだ内容の動画が活用されているのに対し、アニメでは「利用イメージ」もしくは「足止め・集客」のどちらかになっていることがわかります。
この傾向を示す理由としては以下のようなことが考えられます。
- 出展規模が大きくなるにつれて来場者の導線設計上、動画に求められる役割が多様化すること
- 展示物として「サービスの利用イメージ」を積極的に訴求したいというニーズが高い
- アニメ表現の制約上、利用イメージや足止め・集客といった役割にならざるを得ないこと
- 制作費用上の問題で、小規模ブースほどアニメーションが選ばれやすい。
などといった理由が考えられます。実写という選択においては過半数以上が「実事例」や「顧客の声」といった具体的で実践的なテーマが選ばれやすいということから、アニメーションでの動画活用はやや消極的な選択により、コンテンツの役割が決められているという可能性もあると思われます。
まとめ
以上のことから、2016年の展示会の動画活用に関しては以下のような活用状況が読み取れます。
- 出展規模によらず、ディスプレイモニターを設置するブースの半数以上は「動画」を活用。また、全出展ブースに対しても30%程度のブースが「動画」を活用。
- 展示会での動画活用は多様化しており、より実践的・具体的な表現のニーズは高まっている。
- ブースのサイズや制作費上の問題などから、必ずしも出展者がイメージする動画活用に至っているとは言い切れない
動画の活用ニーズは年々高まっており、表現や内容のバリエーションも増えているものの、展示会での動画利用は、様々な制約条件によって「アニメーションでの利用イメージの訴求動画」がやや多めに選ばれているといった印象です。
しかしながら、様々な工夫により、アニメーションでの訴求においてもバリエーションを持たせることができます。次回は、より効果的に展示会向けの動画活用をするためのポイントについて解説したいと思います。